自社スタジオを構え、配信体制も整備。リード創出・醸成目的の動画配信ノウハウを活かして社内向け施策も手がけるNECの事例
Virtual Events
新型コロナウイルスのまん延を機に、オンラインイベントやウェビナーを始めたNEC(日本電気株式会社)。はじめてオンラインイベントを実施してから2年余り。その間に、社内に自社専用スタジオを構え、機材やスタッフも揃えて動画配信をおこなう体制を整備してきました。
現在では、マーケティング目的のオンラインイベントやウェビナーだけでなく、社内コミュニケーション施策やインナーマーケティングにも動画配信が活用されています。
実際に、どのように配信体制を整え、どんなコンテンツを配信しているのか、同社IMC統括部マーケティングサービスイノベーショングループ マネージャーの内田朝子さんと同グループ 主任の大木英岳さんにうかがいました。
左:NEC 大木英岳さん、右:NEC 内田朝子さん、中央:BRIGHTCOVE 森(インタビュアー)
初めてのオンラインイベントで従来の10倍以上の参加者を集めた
NECは、世界でも有数の海底ケーブルサービスを展開するほか、小惑星探査機「はやぶさ2」のコンストラクターを担うなど、海底から宇宙まで世界中の多岐にわたる業種の顧客に幅広い価値を提供する企業です。なかでも、顔認証、虹彩認証、指紋認証の技術は世界No.1。1億人規模のデータ流通を支えるほか、AI人材も1800人在籍するなど、世界をリードする先端テクノロジーを強みに、社会や産業のDXを推進しています。
同社のデジタルマーケティングを推進しているのが、IMC統括部です。プレスリリースや広告、SNS、口コミなど各タッチポイントのデータをつなげて顧客のデマンドを創出しています。特にデジタルマーケティングにおいては、フィールドセールスで接点の少ない顧客をフォローし、認知からリード創出・醸成を図り、インサイドセールス、フィールドセールスにつなげて、売上に貢献できるように努めています。その活動は「NIKKEI BtoBマーケティングアワード2021」優秀賞を受賞するほど折り紙付きです。
内田さんと大木さんが所属するチームは、特にオンラインイベントや定常的なウェビナーの運営を担当。マーケティングファネルにおけるリード創出・醸成というところに位置づけられた活動をしています。
「そもそも、オンラインイベントを始めたのは、新型コロナウイルスのまん延によりリアルイベントを中止せざるを得なかったことが大きなきっかけでした。2019年7月に『iEXPO KANSAI』、11月には『C&Cユーザーフォーラム&iEXPO』(東京)などリアルイベントを積極的に開催していて、2020年も同じようなイベントを実施する予定で進めていたのです。そこで、2020年7月は、関西というエリアのくくりも取って、初のオンラインイベントを実施することにしました」(内田さん)
結果的には、のべ3万人ぐらいが参加。これは従来の10倍以上の人数でした。さらに、ターゲット層へのリーチも10%増えたそうです。
「リアルイベントはどうしても営業が既存顧客を招待するケースが多いのですが、オンラインイベントにしたことで新規顧客の数も増え、従来の3倍を集客することができました」(内田さん)
定常的にウェビナーを配信するために、自社スタジオや配信体制を整備
一定の成果が見込めたことで、NECではオンラインイベントへのシフトがスタートしました。
「デジタルマーケティングをやっていく中で、大きいイベントだけでなく、きちんとクロージングにつながるウェビナーを定常的に実施できる体制をつくってほしいという上司からの指示もあり、本格的な配信体制を構築することにしました」(内田さん)
まずは、定常的にウェビナー配信ができるスタジオを作ることに。会議室だった場所を、壁面にパネルをつけ、バーを設置して照明を吊り下げるなどして、改装費に大きなコストをかけずにスタジオ化しています。2020年7月に初めてのオンラインイベントを開催した後、3カ月弱でスタジオを設置したそうです。
最初に完成したスタジオ
「機材は、TV業界の技術者のアドバイスを受けながら、撮影用カメラ、配信用PC、レコーダー、ミキサー、スイッチャーなど、ひと通り揃えました。当社は放送機材なども取り扱っている会社なので、あまりにも映像のクオリティが低いと恥をかく恐れがあると言われたんです。もちろん、本格的な動画制作ではなく、配信したいという目的がはっきりしていたものの、一定以上のクオリティは担保する必要があると考えました」(大木さん)
配信スタッフは、もともと機材関係に詳しい社内メンバー、関係会社やグループ会社、先駆けてオンライン配信をやっていたチームなど、計3チームで構成しています。
動画の編集は前提としておらず、ライブに近いかたちで収録。事前に台本をしっかり準備し、一発撮りを原則としています。この手法は、「編集しすぎた動画は、意外と人気がない」という過去の配信データからも得られた知見です。
「最終目的はNECのビジネスに貢献すること。ブランディング動画ではないので、キレイな見た目にこだわるのではなく、あくまで内容を重視しています。そういう意味での質は、まったく妥協する気はありません」(内田さん)
ただ、クオリティを追求していくと「突貫でつくった簡易的なスタジオだけではもの足りないと感じるようになった」と言います。そこで、スタジオの意匠をバージョンアップしたり、スタジオをもう一つ設置したりと、ハード面を充実させていきます。あわせて、社内向けにオンラインイベント実施ガイドや、スタジオ利用のガイドなども整備しました。
A-STUDIO
B-STUDIO
機材スペース
「安定してウェビナーの施策を続けているのは、やはり結果もついてきているからです。コロナが収束しつつある中で、徐々にリアルイベントも再開していますが、これまで通りオンラインイベントやウェビナーも実施したいと考えています」(内田さん)
配信ノウハウを活用して、社内向け施策も実施
デジタルマーケティング施策の一環として始めた動画配信でしたが、次第に社内向けのオンラインイベントも実施するようになりました。スタジオや設備が充実したことにより、当初は想定していなかったアイデアがいくつも生まれています。
「経営幹部と社員の対話のためのタウンホールミーティングは月1回開催しています。スタジオがなかったときは、コーポレート部門が機材やスペースを借りてきて、セットを組んで実施していました。スタジオや機材が常設になったことで、配信コストを効率化できるし、コンテンツの質に注力できるようになりました」(内田さん)
タウンホールミーティングを参考に、社内から同じようなイベントをするためにスタジオを使いたいという声も、多数上がっているそうです。
また、社内向けに昼休みの15分を使ったオリジナル情報番組「DXアカデミア」を制作・配信しています。NECが最も注力するDX領域をテーマにした番組で、DXについて社員の知識を深めることを目的にスタートしました。
社内向けオリジナル番組「DXアカデミア」
「司会はIMC統括部のメンバーがつとめ、DX事業の専門家などのほか、現場社員も出演しています。司会と掛け合いしながら、15分でDXに対する理解を深めてもらうことを意識してつくっています。多くの社員に視聴してもらっていて、評判も想定以上です。」(大木さん)
ビジネスコンテンツは動画のほうがメリットがある
現在は社内向けに展開しているオリジナル番組「DXアカデミア」ですが、今後は社外向けの展開も検討しているとのこと。
「当社が運営しているビジネス情報サイト「wisdom」でも、ブライトコーブのVideo Cloudを利用して動画配信を行っています。そういったメディアや配信プラットフォームを活用して、大規模なセミナーだけでなくライトな番組を配信できたらと考えています。社内外に情報をうまく届けていくために、動画配信プラットフォームの整備はとても重要です。
今の世の中、ビジネスや政治に関する面白い動画やライブ配信がたくさんあって、個人的にもテキスト記事を読まなくなってきているのを実感しています。動画をしっかり観なくても、耳で聴いてもいい。動画を視聴しにくいシーンでもコンテンツを届けることができます。特に忙しいビジネスパーソンを対象に届けるコンテンツは、動画の方がより利用していただけるのではないでしょうか」(内田さん)
NECでは自社スタジオや配信機材、体制を整備したことで、オンライン配信を活用したいろいろな施策を実行しやすくなっていることがうかがえました。一つひとつの施策で着実に成果を出していることから、一つの施策が次の展開を呼ぶ、良いサイクルができているとも言えるでしょう。動画運用の理想的な事例かもしれません。